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富山地方裁判所 平成3年(行ウ)1号 判決 1999年12月13日

甲事件・乙事件原告(以下「原告」と略する)

伊藤正一

右訴訟代理人弁護士

山根彬夫

神谷信行

鈴木啓文

甲事件被告

富山森林管理署長

村上不二男

乙事件被告

中信森林管理署長

高橋秀通

右両被告指定代理人

渡邉元尋

外一一名

主文

一  甲事件被告に対し、平成元年四月一日から平成一三年三月末日までの間別紙物件目録記載一の各国有林野の使用を許可するよう求める訴え及び乙事件被告に対し、平成元年四月一日から平成一三年三月末日までの間別紙物件目録記載二の国有林野の使用を許可するよう求める訴えを、いずれも却下する。

二  甲事件被告が原告に対し平成元年三月二八日付けでした別紙物件目録記載一の各国有林野の使用不許可処分の取消しを求める請求及び乙事件被告が原告に対し平成元年三月二九日付けでした別紙物件目録記載二の国有林野の使用不許可処分の取消しを求める請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲乙両事件とも、原告の負担とする。

事案及び理由

第一 請求

一 甲事件

1 甲事件被告が原告に対し平成元年三月二八日付けでした別紙物件目録記載一の各国有林野の使用不許可処分を取り消す。

2 甲事件被告は、原告に対し、平成元年四月一日から平成一三年三月末日までの間別紙物件目録記載一の各国有林野の使用を許可せよ。

二 乙事件

1 乙事件被告が原告に対し平成元年三月二九日付けでした別紙物件目録記載二の国有林野の使用不許可処分を取り消す。

2 乙事件被告は、原告に対し、平成元年四月一日から平成一三年三月末日までの間別紙物件目録記載二の国有林野の使用を許可せよ。

第二 事案の概要

一 本件は、国有林野の使用許可を受けて山小屋を経営する原告が、その使用料を支払わないこと等を理由に使用不許可処分を受けたため、被告らに対し、右不許可処分の取消しを求めるとともに、使用許可処分を求めている事案である。

二 争いのない事実等

1 当事者

(一) 原告は、別紙物件目録記載の各国有林野内に山小屋(登山者の宿泊、休憩等のための建物及び付属設備)を所有し、これを経営する者である(右のうち、別紙物件目録記載一1の国有林野内にある山小屋を「三俣山荘」、同目録記載一2の国有林野内にある山小屋を「雲ノ平山荘」、同目録記載一3の国有林野内にある山小屋を「水晶小屋」、同目録記載二の国有林野内にある山小屋を「湯俣山荘」と呼び、それぞれの国有林野を、「三俣山荘敷地」、「雲ノ平山荘敷地」、「水晶小屋敷地」、「湯俣山荘敷地」と呼ぶ。また、右四つの国有林野を合わせて「本件国有林野」と呼ぶ。)。

(二) 富山森林管理署は、三俣山荘敷地、雲ノ平山荘敷地、水晶小屋敷地(以下この三つを合わせて「本件富山国有林野」という。)を所管し、中信森林管理署は、湯俣山荘敷地を所管している。

原告が取消しを求める処分の当時は、富山営林署が本件富山国有林野を所管し、大町営林署が湯俣山荘敷地を所管していた(なお、その後、大町営林署は、平成四年三月一日をもって、松本営林署に統合された。)。

農林水産省設置法の一部改正に伴い、林野庁の地方支分部局が組織変更され、平成一一年三月一日より、同日までに営林署長がした処分等及び営林署長に対してした申請等は、相当の森林管理署長がした処分等又は申請等とみなされることとなった(平成一〇年一〇月一九日法律第一三五号附則一条、四条、五条)。この結果、富山営林署長がした処分等又はこれに対してした申請等は、甲事件被告富山森林管理署長がした処分等又は申請等とみなされ、大町営林署長がした処分等又はこれに対してした申請等は、乙事件被告中信森林管理署長がした処分等又は申請等とみなされる(以下では、行政庁名は、当時の名称で表記する。)。

2 原告の本件国有林野の使用状況

(一) 原告が、本件国有林野の使用を開始したのは、三俣山荘敷地については昭和二一年ころ、水晶小屋敷地については昭和二二年ころ、雲ノ平山荘敷地及び湯俣山荘敷地については昭和三二年ころである。

(二) 原告は、昭和五二年ころまでは、国有林野法(現行の名称は「国有林野の管理経営に関する法律」。以下「国有林野法」という。)に基づく賃借契約により本件国有林野を使用していたが、昭和五二年ころからは、国有財産法一八条三項に基づく使用許可を得て使用していた(甲一八の1ないし5、乙二一。なお、証拠の表記につき特に記載のない場合は、甲事件の証拠の番号である。)。右使用許可は、三年の使用許可期間を定めてなされており、原告は、三年ごとに本件国有林野の使用許可を受けていた。

原告は、昭和五八年三月九日、富山営林署長より、本件富山国有林野について、使用許可期間を昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日まで、使用料を合計一二万四五七〇円(昭和五八年度分が三万四二二三円、昭和五九年度分が四万一〇六七円、昭和六〇年度分が四万九二八〇円)として、使用許可を受けた(乙二)。また、同じころ、大町営林署長より、湯俣山荘敷地について、使用許可期間を昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとし、昭和五八年度分、昭和五九年度分及び昭和六〇年度分の使用料を定められ、使用許可を受けた。

3 国有林野使用料の算定方式の変更

(一) 昭和五九年ころまでは、国有林野の使用料は、取引事例を比準して求めた当該国有林野の時価に一定倍率を乗じて算定する方式や、相続税課税評価額相当額に一定倍率を乗じて算定する方式により算定され、あらかじめ使用許可期間内の各年度分の使用料が定められていた(以下「地価方式」という。)。

(二) 昭和五四年三月一五日付け林野庁長官通達「貸付け、部分林、共用林野等の取扱いについて」(五四林野管第九六号)は、「公衆のレクリェーションのため、営利を目的とし、又は収益をあげることを目的として、役務を提供する事業又は物品を販売し若しくは貸し付ける事業」(「レクリェーション事業」)の用に供するため国有林野を使用許可する場合の使用料の取扱いにつき、「レクリェーション事業用地使用料取扱要領」を定めた。右取扱要領は、販売業、飲食業、旅館業(旅館業法二条の旅館業をいう。)、索道業を対象として、当該レクリェーション事業の売上高及び当該売上高の発生に寄与した設備投資額をもとに使用料を算定する方式(以下「収益方式」という。)をとっている。なお、右取扱要領は、まず索道業について適用し、他の業種については、林野庁長官が別に定める日から適用するものとされていたが、昭和五九年一月一一日付け林野庁長官通達「『貸付け、部分林、共用林野等の取扱いについて』等の一部改正について」(五八林野管第三三三号)により、右取扱要領が、索道業以外の業種についても適用されることとなった(乙三、五の1ないし3)。

(三) 原告は、本件富山国有林野のそれぞれにおいて、旅館業を営んでいることから、右取扱要領の適用を受けるものであるが、その適用開始時期は、前記昭和五九年一月一一日付け林野庁長官通達により、昭和六〇年四月一日以後の「切替え時」とされていた(乙五の3)。

4 昭和六一年四月から昭和六四年(平成元年)三月までの使用許可

(一) 原告は、昭和六一年三月一七日、富山営林署長より、本件富山国有林野のそれぞれについて、次の内容で使用許可を受けた(乙一の1ないし3)。

(1) 使用許可期間 昭和六一年四月一日から昭和六四年三月三一日まで

(2) 昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの使用料

三俣山荘敷地 四万五六〇〇円

雲ノ平山荘敷地 二万〇三〇〇円

水晶小屋敷地 八二〇〇円

(3) 昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの使用料及び昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの使用料は、各事業年度ごとに算定する。

(4) 事業者(原告)は、毎年三月一〇日までに前年の一月一日以降一年間の売上高及び設備投資額を記載した営業実績報告書を営林署長の定める様式によって営林署長に提出しなければならない。

(二) 原告は、昭和六一年四月一日、大町営林署長より、湯俣山荘敷地について、使用許可期間を昭和六一年四月一日から昭和六四年三月三一日まで、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの使用料、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの使用料及び昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの使用料をそれぞれ定められて、使用許可を受けた(弁論の全趣旨)。

5 平成元年四月以降の使用不許可

(一) 原告は、平成元年二月一七日付けで、富山営林署長に対し、本件富山国有林野の使用許可を求めたが、富山営林署長は、同年三月二八日付け不許可処分通知書をもって、(一)原告が、昭和六一年三月一七日付け本件富山国有林野の使用許可条件(ただし、負担の意味である。以下同じ)。に定められた営業実績報告書の提出をしていないこと、(二)結果として、昭和六二年度分及び昭和六三年度分の使用料が未納となっていること及び(三)原告が今後も営業実績報告書の提出を拒否し、使用許可条件に従わない旨表明していることを理由として、原告の本件富山国有林野の使用を不許可とした(甲一の1)。右通知書は、同月二九日、原告に到達した。

(二) 原告は、平成元年二月一八日付けで、大町営林署長に対し、湯俣山荘敷地の使用の許可を求めたが、大町営林署長は、同年三月二九日付け不許可処分通知書をもって、原告の湯俣山荘敷地の使用を不許可とし(甲一の3、乙事件の乙八の2)、右通知書は、同月三〇日、原告に到達した。なお、右通知書には、不許可の理由は記載されていなかった。

6 審査請求

原告は、平成元年五月二六日、農林水産大臣に対し、前記5の各不許可について審査請求をした。

農林水産大臣は、右審査請求について、棄却及び却下の裁決をし、右裁決書は平成二年一二月五日に原告に到達した。

三 原告の主張

1 甲事件について―本件富山国有林野の使用不許可処分の違法性

(一) 収益方式の不当性

収益方式は、以下のとおり不当なものであるから、富山営林署長が、右算定方式による使用料の不払いを理由に、原告に対し本件富山国有林野の使用を不許可としたのは、裁量権の逸脱である。

(1) 収益方式は、以下のような山小屋の公共性と山小屋経営者の公共奉仕を適切に評価していない。そして、収益方式は、山小屋の公共性との均衡を著しく失しており、比例原則に違反する。

① 山小屋経営者は、山小屋の開設については筆舌に尽くせない苦労をしており、特に最奥地にある原告の山小屋建設の苦労は他の山小屋に比べて大きい。原告を初めとする山小屋経営者は、水、電気、燃料のライフラインを全て自給している。

② 原告を初めとする山小屋経営者は、登山者の生命身体の安全確保や環境保護のため、莫大な私費を投じて、遭難救助、診療所開設、登山道の開削、し尿処理等、極めて多くの公共的業務を行っている。

③ 原告は、登山者と山小屋スタッフの生命保護や物資輸送等のため、莫大な私費を投じ、昭和二〇年代から一〇年がかりで登山道開削の調査をし、昭和三一年に登山道を開通させ、遭難救助等の利用に供してきた。

④ 山小屋経営者の遭難救助の苦労は筆舌に尽くし難いものであり、自らの生命の危険すらある命懸けのものである。不幸にして遭難者を出してしまった場合でも、捜索、遺体収容について山小屋の果たす役割は大きい。

⑤ 三俣山荘では、昭和三九年から現在まで、毎年夏の営業時期に岡山大学医学部から医師・看護婦を呼び、登山者に医療を提供している。この診療所について、原告は、医薬品のヘリコプター荷揚げ費用と診療所の正式班員四名の宿泊費・食費を負担している。

⑥ 原告は、平成九年から、し尿をヘリコプターで下界へ降ろして処理し始めたが、平成九年には、ヘリコプター輸送費、くみ取り料等合計で三五〇万円を支出した。原告は、平成一〇年に、そのままヘリコプターで吊り下げされるタンクを自費で開発し、環境保護のためにし尿搬送回数を大幅にへらすことに成功した。

⑦ 以上のような公共的な業務に対し、林野庁側からの補助は皆無である。

(2) 山小屋では、山小屋施設の維持以外に、食料の輸送、水の自給、道標その他の整備、診療所の維持、し尿処理その他に莫大な費用がかかり、その経費率は九〇パーセントに及ぶ。しかし、収益方式では、この高い経費率が読み込まれていない。

また、本件で林野庁のとる収益方式は、「設備投資額の六〇パーセント」を損益分岐点率としているが、会計学上の損益分岐点率は、常に変動するものであって、固定された数値ではないし、六〇パーセントという数字は、日本のサービス業(一部上場企業)における統計数字(平均値八九パーセント)と著しい格差がある。

このように、収益方式を適用する結果、著しい不合理が生じる。

(3) 環境庁管轄下の国有地の使用料については、土地価格をもとにした定額方式が採られており、値上率上限を1.2倍にとどめ、これを三年据え置くなど、急激な増額が生じないように配慮されている。ところが、本件で林野庁のとる収益方式によると、短期間に一〇倍以上の増額となる場合があるほか、環境庁管轄下の国有地の使用料との間に三倍以上の格差が生じている場合がある。

このような環境庁の取扱いとの間の著しい格差は、平等原則違反である。

(4) 林野庁はアメリカ合衆国における制度を参考にしたと主張するが、そもそもアメリカ合衆国においては、日本の山小屋のような施設は存在しないし、収益方式による使用料が徴収されているのは開発型リゾート地域にある宿泊施設であるから、日本の山小屋について収益方式を導入するのは不当である。

このように、我が国はアメリカ合衆国とは事情を異にしており、立法事実が欠如している。

(5) 国有林野の使用料は、①地方公共団体で当該土地の固定資産評価額を出し、それに対する公租公課を算出し、これに民間以下の倍率を乗ずる方法によるか、あるいは、②全国の土地価格の上昇率、地代上昇率、消費者物価上昇率等を総合的に勘案し、民間の値上げ率以下の範囲内において、使用料増額率を決定し、前の使用料にその増額率を乗じて使用期間満了ごとに段階的に増額する方法により算出されるべきである。

(6) 本件富山国有林野の使用料は、従前より、地価方式によって算定され定着してきたものであり、これは信頼保護の原則により保護されるべきである。

(二) 営業実績報告書の提出強制の違憲性

収益方式の採用に伴い、営業実績報告書の提出が義務付けられているが、これは事業者の営業上のプライバシー権を権力的に制約するものであるから、法律の根拠が必要であるにもかかわらず、法律の規定は何ら存在しない。このように、法律に基づかずに営業実績報告書を求める行政行為は、「法律に基づく行政」の基本原則に反し、憲法三一条に違反する。

したがって、原告が営業実績報告書の提出を拒否したことを理由に、本件富山国有林野の使用を不許可としたのは、裁量権の逸脱である。

2 乙事件について―湯俣山荘敷地の使用不許可処分の違法性

(一) 他事考慮

大町営林署長は、原告が本件富山国有林野について営業実績報告書の提出を拒否していること及び右国有林野の使用料を支払っていないことを理由として、湯俣山荘敷地の使用を不許可としたものであるが、右理由とした事実は大町営林署の管轄区域外の事情であるから、これをもって不許可とするのは裁量権の逸脱である。

(二) 処分理由の追加

乙事件被告は、本訴に至って、後記五2(二)記載の①自然環境の保全の必要性、②原告の従前の利用状況、③宿泊施設としての必要性、④荷継小屋としての必要性及び⑤避難小屋としての必要性を処分理由として主張しているが、処分当時及び行政不服審査手続段階ではこれらの主張を一切していなかったものであり、このような処分理由の追加は許されない。

四 甲事件被告の主張

1 本案前の申立て

請求の第2項にかかる訴えは、最高裁判上、未だ許容されることが確立されていない、いわゆる義務付け訴訟に該当するところ、これを許容する学説及び下級審の裁判例によっても、同訴訟の許容要件を欠くことが明らかであるから、不適法であり、却下されるべきである。

2 本案について

(一) 不許可処分の適法性

国有林野は、国有財産のうちの行政財産であるが、行政財産は原則として処分等の対象とすることができず(国有財産法一八条一項)、ただ、行政財産をその用途又は目的を妨げない限度において、行政処分たる許可により国以外の者に使用収益させることができることとされている(同条三項)。したがって、国有林野を誰にいかなる条件で使用収益させるかについては、国有林野の管理者に広い裁量が認められるべきである。

そして、本件で、富山営林署長は、(二)以下に述べるとおり、国有林野の適正な使用料算定方式である収益方式による使用料の支払を条件として国有林野の使用を許可すべきものであるところ、本件富山国有林野の使用を欲する原告が、収益方式による使用料算定のために不可欠な営業実績報告書を提出せず、かつ、収益方式による適正な使用料を納付する意思のないことを明らかにしたため、原告に対する本件富山国有林野の使用を不許可としたのであり、右不許可処分は富山営林署長の裁量の範囲内であって、適法である。

(二) 収益方式の正当性について

山小屋等の国有林野内の森林レクリェーション事業に対して収益方式を採用するに至った経緯は、当該森林レクリェーション事業用地が、その周辺に所在する優れたレクリェーション機能を有する広範な国有林野と密接に関連し、その機能を最も効果的に利用し得ると判断される場所に拠点的に位置していることから、当該事業用地を使用することによって得られる経済価値は、当該事業用地によるそれにとどまるものではなく、これを取り巻く良好な「場所的環境」に係る利益をも包含したものであることが認識されるようになったことによるものである。

すなわち、国有林野は、一般的に、その立地条件、利用目的等からして、その単位面積当たりの利用価値は極めて低いことから、その地価は、住宅地に比して著しく低い。これに対して、山小屋は、広範な国有林野の中にあって、通常、登山者が往来する登山道に接し、登山者が休憩あるいは宿泊を必要とし、かつ、優れた景観を眺望し得るような要所に拠点的、独占的に位置していることから、当該事業用地の経済的価値は極めて高いものがあり、その価値は、当該事業用地の周辺に所在する国有林野のそれと同視することは適切ではない。

そして、森林レクリェーション事業用地は、広範囲な国有林野内に点在していることから、その土地の価額を把握するための同類型の適切な取引事例に乏しく、かつ、適正な比準も困難で地価が形成されにくく、従来の地価方式によっては適正化を図ることができない。そのため、経済・社会情勢の変化の中で、国会における審議の経過を踏まえ、アメリカ合衆国山林局等の例も参考にしながら、国有林野内のレクリェーション事業用地の収益のあり方について一層の適正化を図るという観点から検討を行った結果、国有林野内における営利を目的とする森林レクリェーション事業については、当該事業用地を使用することによって得られる経済価値が的確に反映される使用料の算定方式として、収益方式を採用するに至ったものである。

(三) 営業実績報告書提出義務付けの適法性について

前記のとおり、国有財産である国有林野を誰にいかなる条件で使用収益させるかについては、国有林野の管理者に広い裁量が認められるのであるから、使用料算定のための資料の範囲、資料収集の方法もその裁量の中で決定し得るものである。そして、前記のとおり、経済・社会情勢の変化の中で、山小屋設置のための国有林野の使用については、収益方式が適正・合理的であるとされるに至ったところ、収益方式による使用料徴収実施のためには、使用者の収益・費用の実態を知ることが必要不可欠であることから、当該使用者に対し営業実績報告書の提出を義務付けたものである。

そして、右営業実績報告書は、設備投資額として収益設備及び附帯設備にかかる資産の取得価額並びに収益設備にかかる売上高総額のみを記入するものであり、各価額算出根拠資料・帳簿の提出まで求めるものではないし、営林署において、営業秘密の漏洩の防止、経営への不当介入の防止、執務態度の厳正公平の保持等に留意するとともに、営業実績報告書その他これに関連する書類については、取扱注意文書として指定の上保存し、保存期間終了後は焼却等の方法により処分することとしている。

したがって、営業実績報告書の提出義務付けは、使用料算定にあたっての必要最小限の措置であって、何ら違憲・違法ではない。

五 乙事件被告の主張

1 本案前の申立て

請求の第2項にかかる訴えは、最高裁判例上、未だ許容されることが確立されていない、いわゆる義務付訴訟に該当するところ、これを許容する学説及び下級審の裁判例によっても、同訴訟の許容要件を欠くことが明らかであるから、不適法であり、却下されるべきである。

2 本案について―不許可処分の適法性

(一) 国有林野の管理については、国有林野法その他の法令に定めるもののほか、国有林野管理規程(昭和三六年三月二八日農林省訓令第二五号)によるものとされているところ、右管理規程二二条及びこれを具体化した昭和四二年四月一八日付け林野庁長官通達「国有林野の管理処分の事務運営について」第七、三では、「国有林野の使用料を滞納している者」、「従来の経緯等から契約を誠実に履行すると認められない者又は国有林野の管理及び処分に関して現に係争関係にある者等であって、契約の相手方として適当でないと認められるもの」を相手として使用の許可をしてはならない旨規定されている。

大町営林署長は、原告が、本件富山国有林野について、許可条件に違反し、使用料を滞納していたことから、右規定に該当するものと判断し、湯俣山荘敷地の使用を不許可としたものである。

なお、原告は、湯俣山荘敷地について使用料を滞納しておらず、滞納等の事実のあった本件富山国有林野は、大町営林署の管轄区域外であるが、国有林野の管理及び処分は本来農林水産大臣の権限に属するものであり、各営林署長はその委任を受けてその管轄区域内の国有林野の管理処分を行っているにすぎないから、使用許可の可否の判断にあたって考慮すべき事情は、当該営林所管内におけるものに限られない。また、本件富山国有林野と湯俣山荘敷地は地理的に近接しており、原告がこれまで右各国有林野上の山小屋を一体として管理・経営してきたことからすれば、本件富山国有林野における使用料滞納等の事実を、湯俣山荘敷地の使用許可の可否にあたって考慮するのは当然である。

したがって、大町営林署長のなした右不許可処分は適法である。

(二) その他の不許可理由

大町営林署長は、前記不許可処分をするにあたり、本件富山国有林野の使用料滞納等の事実のほか、①自然環境の保全の必要性、②原告の従前の利用状況、③宿泊施設としての必要性、④荷継小屋としての必要性及び⑤避難小屋としての必要性を総合的に検討した上、湯俣山荘敷地の使用を不許可とするのが相当であると判断したものであり、右判断は大町営林署長の裁量の範囲内であるから、右不許可処分は適法である。

第三 当裁判所の判断

一 訴訟要件について

1 処分性について

原告は、甲事件請求第1項及び乙事件請求第1項において、営林署長が原告に対し本件国有林野の使用を不許可としたのは違法であるとして、その取消しを求めているが、取消訴訟の対象となる行為は「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条二項)であり、これに該当すると言えるためには、その行為が国民の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであることが必要である。そして、原告は、後記のとおり、国有財産法一八条三項の許可を求めたものであるが、同法には、右許可を求める申請について定めた規定がないことから、許可を求めるのは法律上認められた権利ではなく単に許可行為の発動を促す端緒にすぎないとして、これを拒否する行政庁の行為は、申請者の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、取消訴訟の対象とならないのではないかが問題となる。

これを判断するに、国有財産法一八条三項の許可(これは、申請者が本来有していなかった権原を与える行為であるから、講学上の特許にあたると解される。)が、申請者の申請なしになされることはおよそ考えられないことからすると、国有財産法は申請者により申請がなされることを当然に予定していると解されるし(現に「貸付け、部分林、共用林野等の取扱いについて」<五四林野管第九六号>において、国有林野の貸付、使用許可等の方針、手続が定められ、申請書やその添付書類について規定している。)、申請に対して許可がなされると、これにより申請者は、行政財産を適法に使用収益する具体的権原を有することになるのであるから、そのような許可を求める申請者の地位は、一種の権利ないし法律上の地位と解することができる(なお、殊に本件のように、申請者が、従前から、一定の使用期間を区切られた使用許可を受けることを繰り返しているため、当該国有財産を継続して使用してきた者である場合に、以後の使用を不許可とする行為がその者に与える影響は大きい。)。

したがって、国有財産法一八条三項の許可を求める申請を拒否する行政庁の行為は、申請者の権利ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものであるから、取消訴訟の対象となるというべきである。

2 義務付け訴訟の適否(被告らの本案前の申立て)について

甲事件請求第2項及び乙事件請求第2項は、いずれも行政庁に対し一定の処分をなすべきことを義務付けるものであるが、このような義務付け訴訟は法に規定がないことから、適法な訴えであるかどうかが問題となる。

本来、行政についての第一次判断権は行政庁にあるとするのが憲法上の三権分立の要請であると考えられることからすれば、義務付け訴訟が適法な訴えとして認められるためには、少なくとも、行政庁に第一次的判断権を留保する必要がない場合、すなわち、行政庁が当該処分をすべきことについて法律上羈束されており、裁量の余地が残されていないことが必要であると解される。

ところが、本件では、後述のとおり、国有林野の使用許可をするかどうかは行政庁の裁量に委ねられていると解されるから、右の要件をみたさないことは明らかである。

したがって、その余の点について検討するまでもなく、甲事件請求第2項及び乙事件請求第2項に係る訴えは、いずれも不適法な訴えというべきである。

二 本案について(総論)

1 国有林野の性質及びその使用の根拠について

(一) 本件国有林野は、国の所有に属する森林原野であって、国において森林経営の用に供し、又は供するものと決定し、国有財産法三条二項四号の企業用財産となっているもの(国有林野法二条一号)である(弁論の全趣旨)。

そして、企業用財産は行政財産の一種であるところ(国有財産法三条二項)、行政財産は、原則として、貸付、交換、売払等ができず(同法一八条一項)、これに違反する行為は無効である(同条二項)が、その用途又は目的を妨げない限度において、使用又は収益を許可することができるものとされている(同条三項)。これは、行政財産は、本来、公用又は公共用その他の行政目的に供せられるものであるから、その融通性は極度に制限されるのであるが、国の財産を常に良好な状態において管理し、目的に応じて最も効率的に運用すべきこと(財産法九条二項参照)の一環として、例外的に行政庁の処分である許可に基づいて、行政財産の使用又は収益をさせることができるものとした趣旨と解される。

(二) 国有林野の管理・処分に関する事務は、農林水産省の所掌事務であり、農林水産省の外局である林野庁がこれを所掌し、その地方支分部局である森林管理署がその事務を分掌し、森林管理署長が国有林野の管理・処分についての権原を有する(国有財産法五条、九条一項、農林水産省設置法四条一〇八号、二九条、三三条一項一号)。

本件国有林野の使用不許可処分当時は、各営林署長がその所管する国有林野の管理・処分についての権限を有していた。

2 争点

本件で、原告は、各営林署長が原告に対し本件国有林野の使用を不許可としたのは違法であるとして、右処分の取消しを求めている。

ところで、前記の国有財産法一八条三項の規定及びその趣旨からすると、ある国有林野の使用を許可するか否か、また、許可するにあたり、使用用途・使用料等につきいかなる条件を付すかについては、許可権限を有する営林署長の裁量に委ねられていると解するのが相当である。

したがって、本件で各営林署長のした不許可処分が違法として取り消されるためには、右各処分が、裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合でなければならない(行政事件訴訟法三〇条)。

そして、本件で、原告は、甲事件については、林野庁長官通達によって導入された収益方式による使用料算定が不当であること(争点1)及び右収益方式に伴うものとして営業実績報告書の提出を使用許可条件とするのは違憲・違法であること(争点2)を、乙事件については、他の営林署管轄内の国有林野の使用料不払等の事情をもとに、使用不許可処分をしたのは他事考慮であって許されないこと(争点3)を、それぞれ裁量権の範囲の逸脱の事由として主張するので、以下に判断する。

三 争点1(国有林野の使用料を収益方式により算定することの適否)について

1 争いのない事実及び証拠(甲一の1、甲一八の5、甲一九の1、甲三一、乙二、乙三、乙四、乙五の1ないし3、乙七、乙一四の1ないし3、乙一五、乙一九、乙二一ないし二七、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件富山国有林野の所在地及び原告による山小屋経営について

本件富山国有林野は、長野県、岐阜県、富山県の県境付近にあり、標高三〇〇〇メートル級の山々からなる北アルプスと呼ばれる山岳地域に位置する(甲一九の1)。

原告は、三俣山荘敷地については昭和二一年ころから、水晶小屋敷地については昭和二二年ころから、雲ノ平山荘敷地及び湯俣山荘敷地については昭和三二年ころから、それぞれ使用を開始した。

原告は、昭和五二年ころまでは、国有林野法に基づく貸借契約により本件国有林野を使用していたが、昭和五二年ころからは、国有財産法一八条三項に基づく使用許可を得て使用していた(甲一八の5、乙二一)。右使用許可は、三年の使用許可期間を定めてなされており、原告は、三年ごとに本件国有林野の使用許可を受けていた。

原告は、昭和五八年三月九日、富山営林署長より、本件富山国有林野について、使用許可期間を昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日まで、使用料を合計一二万四五七〇円(昭和五八年度分が三万四二二三円、昭和五九年度分が四万一〇六七円、昭和六〇年度分が四万九二八〇円<内訳は、三俣山荘敷地について三万〇三七〇円、雲ノ平山荘敷地について一万三四七四円、水晶小屋敷地について五四三六円>)として、使用許可を受けた(乙二)。また、同じころ、原告は、大町営林署長より、湯俣山荘敷地について、使用許可期間を昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとし、昭和五八年度分、昭和五九年度分及び昭和六〇年度分の使用料を定められ、使用許可を受けた。

原告の各山小屋の顧客収容力は、三俣山荘が二五〇名、雲ノ平山荘が二〇〇名、水晶小屋が三〇名であり(なお、湯俣山荘は休業中である。甲一九の1)、売上高の合計額は、昭和五九年度(昭和五九年一月一日から同年一二月三一日まで)は約三〇一三万円、昭和六〇年度は約三〇四七万円、昭和六一年度は約三一〇二万円であった(乙一四の1ないし3、甲三一)。

(二) 国有林野の使用料算定に関する農林省訓令

国有林野の使用料の算定については、国有林野管理規程(昭和三六年三月二八日農林省訓令第二五号)二五条一項において、「貸付料又は使用料の年額は、法令に別段の定めがある場合を除き、当該林野につき、用途等に応じて林野庁長官が定める算定方法を適用して得られる金額とする」と規定されている(乙四)。

(三) 収益方式導入の経緯

(1) 従前、国有林野の使用料は、取引事例を比準して求めた当該国有林野の時価に一定倍率を乗じて算定する方式や、相続税課税評価額相当額に一定倍率を乗じて算定する方式により算定され、あらかじめ使用許可期間内の各年度分の使用料が定められていた。

本件富山国有林野の昭和六〇年度(昭和六〇年四月から昭和六一年三月まで)の使用料は、地価方式により算定されていた。

(2) 昭和四一年第五二回国会衆議院決算委員会において、「国有林野の貸付料が適正でない。」、「観光・レジャー用地の貸し付けについては、収入金に見合った貸付料を取るべきである。」との議論がなされるなどし(乙七)、林野庁において、国有林野の貸付料等の見直しが検討された。

そして、林野庁長官の要請に基づき、昭和四六年九月、大学教授、農林省林業試験場経営第一科長、財団法人日本不動産研究所研究員を構成員とする国有林野管理研究会が発足し、事務局として林野庁内の企業会計・不動産鑑定等の専門家が加わり、国有林野をレクリェーション事業の用に貸し付ける場合の貸し付け料等の適正化についての調査研究が行われた。右調査研究においては、昭和四三年から昭和四五年にかけて行われた国有林野内における森林レクリェーション事業者の実態調査をもとに、アメリカ合衆国の例を参考にしたモデルの検討が行われるなどした(乙二二ないし二六)。そして、右研究会は、昭和四七年六月二三日、調査研究結果を「国有林野管理研究会報告書」(乙一九)にまとめた。

右報告書の概要は、以下のとおりである。

① 国民生活に占める野外レクリェーション活動の重要性の増大に伴い、すぐれた野外レクリェーション資源を有する国有林野は、国土の保全、自然の保護、材木生産等との調整を図りつつ、積極的に野外レクリェーション機能を発揮することが要請されており、レクリェーション事業用地の貸し付けのあり方について一層の適正化を図る必要がある。

② 従来、国有林野の貸付料は、貸し付けに係る国有林野の時価に四パーセントを乗ずる方法によって算定されている。

しかし、国有林野内のレクリェーション事業用地は、国の管理に係る広い範囲の良好な環境から集約的拠点的に受益する要所に位置しており、また、国有林野内に点在するため、民有地に適切な取引事例を求めることが困難な場合が多いので、レクリェーション事業用地の貸付料は、貸し付けに係るレクリェーション事業の収益を基とする方法によって算定し、必要に応じて現行の方法又は賃貸事例を比較する方法によって補完するなどの方法によることが適当である。

③ レクリェーション事業の収益を基として算定する方法としては、純収益を基とする方法と粗収益すなわち売上高を基とする方法が考えられるが、レクリェーション事業者の経理の内容に深く介入することを避けるとともに、貸付料の算定事務の簡素化を図るため、収益性を反映させる工夫をした上で売上高に料率を乗ずる方法によってすることが適当である。

④ レクリェーション事業の収益性は、売上高を損益分岐点売上高相当額を基準として区分することにより把握することとし、損益分岐点売上高相当額は、設備投資原価に対する損益分岐点売上高の割合が業種別に一定の数値(「損益分岐点率」)で代表させることができるものと考えられることに留意し、事業者の設備投資原価に業種別に定められた一定の損益分岐点率を乗じて算定することが適当である。

⑤ 基本となる料率は、一般企業の操業度を勘案して定めた売上高に適用する料率とするとともに、当該売上高をあげた場合における売上高対営業利益率が業種によって異なることに留意し、業種別に定める必要がある。

業種別の基本となる料率の数値の決定についてはいくつかの方法があるが、実践的には、基本となる料率が適用される売上高をあげた場合における営業利益のうち土地に帰属させるべき適正な割合を定め、この割合と当該売上高をあげた場合における業種別の売上高対営業利益率を基として定める方法によることが適当と考えられる。

(3) さらに、その後、原告を含めたレクリェーション事業者について、昭和五五年度及び昭和五六年度の営業実績調査が実施された(乙二七)。

(4) 前記調査研究の結果を踏まえ、昭和五四年三月一五日付け林野庁長官通達「貸付け、部分林、共用林野等の取扱いについて」(五四林野管第九六号)の別紙1「レクリェーション事業用地使用料取扱要領」(後に、改正により「森林レクリェーション事業用地使用料取扱要領」に変更。以下「取扱要領」という。)が作成され、「公衆のレクリェーションのため、営利を目的とし、又は収益をあげることを目的として、役務を提供する事業又は物品を販売し若しくは貸し付ける事業」(レクリェーション事業)の用に供するため国有林野を使用許可する場合の使用料の取扱いについては、販売業、飲食業、旅館業(旅館業法二条の旅館業をいう。)及び索道業を対象として、当該レクリェーション事業の売上高及び当該売上高の発生に寄与した設備投資額をもとに算定するものとされた。ただし、取扱要領は、まず索道業についてのみ適用し、他の業種については、林野庁長官が別に定める日から適用するものとされていた。

そして、昭和五九年一月一一日付け林野庁長官通達「『貸し付け、部分林、共用林野等の取扱いについて』等の一部改正について」(五八林野管第三三三号)により、索道業以外の業種についても適用されることとなった(乙三、五の1ないし3)。

(四) 取扱要領の概要(以下、取扱要領に基づく算定方法を「本件収益方式」という。)

(1) 森林レクリェーション事業の用に供するため国有林野を使用許可する場合の使用料は、当該森林レクリェーション事業の売上高及び当該売上高の発生に寄与した設備投資額をもとに算定するものとする。

(2) 使用料の年額は、毎事業年度の直前の事業年度の売上高及び当該売上高の発生に寄与した設備投資額をもととして毎事業年度の初日から起算して三か月を経過する日の翌日以降一年分につき定めるものとする。

(3) 算定因子

① 売上高は、一事業区域内の国有林野の使用許可に係る設備のうち索道設備、旅館設備、売店設備等売上高の発生に直接寄与する設備(「収益設備」)の前事業年度の売上高の総額とする。

② 設備投資額は、売上高の発生に寄与した前事業年度末に現存する設備の取得価額とする。

設備投資予定額は、使用許可に係る設備で暫定期間内に取得を予定しているものの取得予定価額とする。

③ 損益分岐点売上高相当額は、設備投資額又は設備投資予定額に次の業種別の損益分岐点率を乗じて得た額とする。

販売業 九〇パーセント

飲食業 四五パーセント

旅館業 六〇パーセント

索道業 三五パーセント

④ 料率は、普通料率及び附加料率とする。

a 普通料率は、普通料金を算定する場合のもととなる料率とし、それぞれの業種ごとに次のとおりとする。

販売業 0.90パーセント

飲食業 1.60パーセント

旅館業 2.00パーセント

索道業 3.00パーセント

b 附加料率は、建物の用に供するための使用許可の面積が特別の理由により制限規模面積(建物の建面積の五倍の面積)を超える場合に、普通料金に乗じて附加料金を算定する料率とする。

(4) 算定方法

使用料は、普通料金に附加料金を加えた額とする。

① 普通料金は、次の表の上欄に掲げる区分に従い区分した前事業年度の売上高に、それぞれ同表の下欄に掲げる区分料率を乗じて得た額の合計額とする。ただし、売上高が損益分岐点売上高相当額の二分の一の額に満たない場合の普通料金及び暫定期間の普通料金は、売上高を損益分岐点売上高相当額の二分の一の額として算定した額とする。

a 索道業以外の場合

売上高の区分

区分料率

損益分岐点売上高

相当額以下の売上高

普通料率の

五〇パーセント

損益分岐点売上高

相当額を超える売上高

普通料率の

一五〇パーセント

b 索道業の場合(略)

② 附加料金は、普通料金に附加料率を乗じて得た額とする。

(5) 使用料の決定

この要領により算定した使用料が時価使用料の額を下回る場合には、時価使用料の額をもって使用料とする。

(6) 調整措置

使用料の年額として算定した額が、切替前の使用料の年額の1.5倍を超える場合は、切替前の使用料の年額の1.5倍の額をもって切替後第一年目の使用料とし、以後算定使用料の額に達するまで毎年次その前年時の使用料の年額に1.5倍を乗じて得た額をもって、当該年次の使用料とする(乙五の3)。

(五) 原告に対する取扱要領の適用

(1) 原告は、本件富山国有林野のそれぞれにおいて、旅館業法三条一項の許可を受けて旅館業を営んでいることから、取扱要領の適用を受けるものであるが、前記昭和五九年一月一一日付け林野庁長官通達により、昭和六〇年四月一日以後の「切替え時」(新たに使用許可を受けるとき)から取扱要領が適用されることとされていた。そして、原告は、本件富山国有林野について、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までの使用許可を受けていたことから、昭和六一年四月以降の使用許可について、取扱要領により使用料が算定されることとなった。

(2) 原告は、昭和六一年三月一日、本件富山国有林野について、昭和六一年四月一日からの使用許可を求める申請書を、富山営林署長に提出した。

国有林管理事務取扱細則により、使用料は前納されるべきこととされていたため、富山営林署長は、昭和六一年度(昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日まで)の使用料を算定するための資料として、昭和六〇年度(昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日まで)の営業実績報告書の提出を原告に求めたが、原告はこれに応じなかった。

(3) そこで、富山営林署長は、昭和五五年から昭和五六年にかけて原告を含む山小屋経営者の協力を得て行った実態調査の資料等を参考に、収益方式により原告の昭和六一年度の使用料を算定してみると、従来の地価方式による前年度の使用料の1.5倍を超えることが確実であったことから、取扱要領中の調整措置の適用があると判断し、営業実績報告書の提出は後日に受けることとして、前年度の使用料に調整措置を講じた額を昭和六一年度の使用料と決定して納入告知した上、次の条件で、本件富山国有林野の使用を許可した。

① 使用許可期間 昭和六一年四月一日から昭和六四年三月三一日まで

② 昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの使用料

三俣山荘敷地 四万五六〇〇円

雲ノ平山荘敷地 二万〇三〇〇円

水晶小屋敷地 八二〇〇円

③ 昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの使用料及び昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの使用料は、各事業年度ごとに算定する。

④ 事業者(原告)は、毎年三月一〇日までに前年の一月一日以降一年間の売上高及び設備投資額を記載した営業実績報告書を営林署長の定める様式によって営林署長に提出しなければならない。

(4) 原告は、昭和六一年三月二九日、右納入告知に基づき、使用料合計七万四一〇〇円を納入し、同年七月二五日、昭和六〇年度の営業実績報告書を富山営林署長に提出した。なお、原告は、右営業実績報告書を提出するにあたり、収益方式による使用料算定には納得できない旨記載した書面を富山営林署長に提出した(乙一四の1ないし3、乙一五)。

(5) 富山営林署長は、提出された右営業実績報告書に基づき、昭和六一年度の使用料を算定したところ、調整措置の適用により、前記納入告知にかかる金額となることを確認した。

(6) 原告は、その後富山営林署長から昭和六二年度及び昭和六三年度の営業実績報告書を提出するよう再三求められたが、これを提出せず、本件収益方式は不当である旨の意見を表明し続けていた。

(六) 平成元年四月以降の使用不許可

原告は、平成元年二月一七日付け国有林野貸付使用申請書を富山営林署長に提出し、本件富山国有林野の使用の許可を求めたが、富山営林署長は、同年三月二八日付け不許可処分通知書をもって、(一)原告が営業実績報告書を提出していないこと、(二)その結果として、昭和六二年度分及び昭和六三年度分の使用料が未納となっていること及び(三)原告が今後も営業実績報告書の提出を拒否し、使用許可条件に従わない旨表明していることを理由として、原告の本件富山国有林野の使用を不許可とした(甲一の1)。

2 以上の事実をもとに判断する。

(一)  前記のとおり、国有林野は、国有財産たる行政財産の一種であり、原則として私人による使用が禁止されているのであるから、例外的に使用を許可するにあたっては、国有財産の適正な管理の要請から、用途の制限や使用料支払義務等の条件を付することができ、右条件の内容は、行政財産の管理者である行政庁により、専門技術的・政策的な考慮を経て裁量に基づき決定できるものと解される。

そして、国有林野の使用を許可する場合の使用料については、法令に別段の定めがある場合を除き、その用途等に応じて林野庁長官が定める算定方法を適用して得られる金額とする旨の前記農林省訓令に従って決定されてきたものであるが、このように、行政財産の管理者が、その使用料についてあらかじめ一定の算定方式を定めておくことは、行政財産の使用許可の公正や使用料算定事務の効率化及び使用許可を受ける者の間の平等などを図る上で必要不可欠なものとして是認でき、行政財産の使用を許可する際に、右算定方式に従って算出される使用料の支払を条件とすることは、右算定方式の内容が明らかに合理性を欠くか、又は、右算定方式を当該申請者に適用するにあたって看過できない不適正な事由がある場合でない限り、違法となることはないというべきである。

(二)  本件では、前記認定のとおり、林野庁長官は、国有林野の使用料が適正でないとの国会での議論を受け、使用料の見直しを図るべく、大学教授等の専門家による国有林野管理研究会を発足させて調査研究を依頼したところ、国有林野をレクリェーション事業の目的で使用許可する場合の使用料は収益方式によるべきであるとする右研究会による報告がされ、これを踏まえて収益方式を採用するものとし、具体的な計算方法については右研究会の報告内容及びその前提となる実態調査の結果をもとにして決定し、取扱要領を作成したことが認められる。

そして、後記のとおり、本件収益方式の不当性についての原告の各主張はいずれも採用できず、他に本件収益方式の内容が明らかに合理性を欠くとか、本件収益方式を原告に適用するにあたって看過できない不適正な事由があるとは認められない。

(三) 本件収益方式の不当性に関する原告の主張について

(1) 原告は、山小屋経営が、過酷な自然条件下において多大な苦労を要するものであることや、山小屋が登山者にとって公共性を有すること等を縷々主張し、収益方式の導入は右の点を考慮しない不当なものである旨主張する。

しかしながら、山小屋が、登山者の安全確保・遭難救助や自然環境保護等に一定の公共的役割を果たしているとしても、それが直ちに収益方式採用の妨げになるものとはいえない。また、従来の地価方式によっても、これら山小屋の公共的役割を特に考慮して使用料を算定するものであったとは認められない。

したがって、この点を理由に収益方式の不当性を主張するのは、理由がない。

(2) 原告は、山小屋経営は、食料の運送、水の自給、道標の整備、診療所の維持、し尿処理等に莫大な費用がかかるが、収益方式では高い経費率が読み込まれていない点で不当である旨主張する。

しかしながら、森林レクリェーション事業のうち、山小屋についてのみ経費率を考慮すべき必然性はないし、かえって、事業者の経費を個々に考慮して純収益をもとに使用料を算定するのは、事業者の経理内容に深く立ち入ることになって妥当でない上、使用料算定事務が複雑化して定型的処理になじまなくなる。また、実際には、山小屋のおかれている自然条件の特殊性を考慮して、ヘリコプターによる生活上・経営上必要な物資の運搬等については、その費用が立証できれば当該年度に限り、設備投資額に算入することができる扱いとされており(弁論の全趣旨)、山小屋の特殊性について配慮がなされているといえるから、右主張は理由がない。

また、原告は、本件収益方式は「設備投資額の六〇パーセント」を損益分岐点率としているが、会計学上の損益分岐点率は常に変動するものであって固定された数値ではないし、六〇パーセントという数字は、日本のサービス業(一部上場企業)における統計数字(平均値八九パーセント)と著しい格差がある点で不当である旨主張する。

しかしながら、本件収益方式の中で用いられている損益分岐点率は、原告の言う会計学上の損益分岐点率とは異なる概念であり、設備投資原価に対する損益分岐点売上高の割合を、業種別に一定の数値で表すための率として用いているものであるから、当然に、固定された数値となるし、原告の主張する会計学上の損益分岐点率の統計数字と比較できるものではない。

(3) 原告は、環境庁管轄下の国有地の使用料について土地価格をもとにした定額方式が採られており、国有林野の使用料と比較して、格差が生じている点で不当である旨主張する。

しかしながら、行政財産の目的・性質等はそれぞれ異なり、また、行政財産は、これを所管する各省各庁の長により管理されるものであるから(国有財産法五条)、行政財産の管理方法が、行政財産ごとに、また、それを所管する各省各庁ごとに異なるのは不合理ではない。

したがって、環境庁における使用料が定額方式であり、かつ、環境庁における使用料が本件収益方式による使用料よりも低額となる場合があるとしても、本件収益方式が不当であることの根拠とはならない。

(4) 原告は、アメリカ合衆国においては、日本の山小屋のような施設は存在しないし、収益方式による使用料が徴収されているのは開発型リゾート地域にある宿泊施設であるから、日本の山小屋について収益方式を導入するのは不当である旨主張する。

しかし、証拠(甲四一)によれば、アメリカ合衆国において、本件のような山小屋が存在しないのは、日本のように登山レクリェーションが発達していないことや、自然環境の厳しい奥地には、人工の建物を建設することが法律により禁じられていることによるものであり、アメリカ合衆国に本件のような山小屋が存在しないからといって、アメリカ合衆国における国有林の使用料の定め方を参考にすることができない理由とはならない。また、証拠(甲四一)によれば、アメリカ合衆国の国有林における土地の使用料の定め方は、第一に、宿泊や販売のようにその土地における行為で金銭を得ることができるようなものについては収益に応じた利用料金とし、第二に、それ以外の送電線や電波塔など直接金銭を得られるものでない場合には土地価格に応じた利用料金としているというように二とおりあることが認められ、本件は、正に前者の場合に相当するものであるから、これを参考にすることが不合理であるとはいえない。

(5) 原告は、国有林野の使用料は、①地方公共団体において当該土地の固定資産評価額を出し、それに対する公租公課を算出し、これに民間以下の倍率を乗ずる方法によるか、あるいは、②全国の土地価格の上昇率、地代上昇率、消費者物価上昇率等を総合的に勘案し、民間の値上げ率以下の範囲内において使用料増額率を決定し、従前の使用料にその増額率を乗じて使用期間満了ごとに段階的に増額する方法のいずれかにより算出されるべきであると主張する。

しかしながら、右の方法は、いずれも一般の土地賃貸借契約の場合の賃料の評価方法を類推し、土地の価格を基準として使用料を算定するものと解されるところ、国有林野を森林レクリェーション事業の用に供する目的で使用を許可する場合には、当該土地の価格を基準として使用料を算定することが必ずしも適正であるとはいえない。すなわち、土地の価格を基準に使用料を算定するには、その前提として土地の価格が適正に定められなければならないところ、森林レクリェーション事業は、一般に当該使用許可に係る土地のみならず、その周囲の広範な国有林野の有する自然環境を受益することにより成り立っていると考えられることからすれば、このような森林レクリェーション事業に適する自然環境をも含めた当該土地の客観的な価格を、全国の国有林野のそれぞれについて統一的な基準に基づいて決定することが必要となるが、それは技術的に著しく困難である上、本来、国有林野は目的外使用が禁止されていることからすれば、国有林野の価格をあらかじめ算定するにあたり、森林レクリェーション事業のために使用することを前提として評価することはできないというべきだからである。また、殊に本件のように、標高三〇〇〇メートル級の山岳地帯に位置し、近隣に不動産取引の対象となる土地が見い出せないような土地については、当該土地自体の時価を客観的に評価することは著しく困難であり、仮に評価したとしても、これを一般の土地賃貸借契約における地価に基づく賃料算定の場合と同様に扱って使用料を算定しても、必ずしも適正な使用料になるとはいえない。

(6) また、原告は本件富山国有林野を遅くとも昭和三二年ころから使用を継続し、その使用料は昭和六一年三月まで地価方式で計算されてきたものであるが、収益方式を採用する必要性は前述のとおりであり、使用料が一時に高額にならないよう調整措置がとられていることも考え合わせれば、地価方式から収益方式に変更しても、原告の主張するような信頼保護に反するとして違法になることはないというべきである。

3 よって、本件富山国有林野を使用許可するに際し本件収益方式により算定した使用料の支払を条件とすることに違法な点はない。

四 争点2(国有林野の使用許可の条件として営業実績報告書の提出を義務付けることの適否)について

1  前記のとおり、国有林野は、国有財産たる行政財産の一種であり、原則として私人による使用が禁止されているのであるから、例外的に使用を許可するにあたっては、国有財産の適正な管理の要請から、用途の制限や使用料支払義務等の条件を付することができ、右条件の内容は、行政財産の管理者である行政庁により、専門技術的・政策的な考慮を経て裁量に基づき決定できるものと解される。

そして、前記のとおり、国有林野を森林レクリェーション事業の用に供するために使用を許可する場合には、本件収益方式により適正な使用料を徴収すべきものとしているところ、本件収益方式による使用料算定のためには、森林レクリェーション事業者の前年度の売上高と設備投資額を把握することが必要不可欠であること及び営業実績報告書は、収益設備・附帯設備である資産の取得価額と売上高総額のみを記入するものであり、各価額の算出根拠資料や帳簿類の提出は要求されていないこと(乙一四の1ないし3、弁論の全趣旨)からすれば、国有林野の使用許可を求める森林レクリェーション事業者に対し、使用料算定の資料とするために売上高と設備投資額を記載した営業実績報告書の提出を求めることは、合理的かつ必要最小限度の措置であって、国有財産を管理する行政庁の裁量の範囲内であるというべきである。

2 この点、原告は、営業実績報告書の提出義務付けは、原告のプライバシー権を権力的に制約するものであるから、法律の根拠が必要である旨主張する。

しかしながら、営業実績報告書の提出は、国有財産の使用を求める者に対し、使用を許可するかどうか、また、使用料等いかなる条件で使用を許可するかを判断する前提として要求しているにすぎず、その態様も、前記のとおり合理的な必要最小限度のものといえること、及び申請者には国有財産を当然に使用できる権利はないことからすれば、これが原告のプライバシー権を権力的に制約するものとはいえない。

3 よって、本件富山国有林野を使用許可するに際し、営業実績報告書の提出を条件とすることに違法な点はない。

五 甲事件についてのまとめ

以上より、富山営林署長が、昭和六一年に原告に対し本件富山国有林野を使用許可するに際し、本件収益方式により算定した使用料の支払及び営業実績報告書の提出を条件としたことに違法な点はなく、これらの条件に違反したことを理由に原告に対する平成元年四月一日以降の使用を許可しなかったことについて、裁量権の逸脱があったとは認められない。

六 争点3(他の営林署管轄内の国有林野の使用料不払等の事情をもとに、使用不許可処分をすることの適否)について

1 争いのない事実及び証拠(甲一の1ないし3、乙四、乙事件の乙七、同乙八の2)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件富山国有林野の使用料について本件収益方式が適用された昭和六一年度以降、富山営林署と大町営林署が合同で開催した事業者に対する本件収益方式の説明会において、本件収益方式には納得できない旨発言する等、種々の機会に、本件収益方式の不当性と営業実績報告書の提出には応じられない意思を表明し続けていた。

(二) 原告は、昭和六一年度及び昭和六二年度の営業実績報告書を提出せず、本件富山国有林野の昭和六二年度分及び昭和六三年度分の使用料を支払わなかった。

(三) 富山営林署長は、原告に対し、昭和六一年以降、文書及び電話により、再三にわたって、営業実績報告書の提出を求めるとともに、右提出のない場合には、新たな使用許可はできない旨及び使用期間満了後は本件富山国有林野を原状に回復して返還しなければならない旨を通知していた。

(四) 原告は、平成元年二月一七日付けで、富山営林署長に対し、本件富山国有林野について平成元年四月一日以降の使用の許可を求め、同月一八日付けで、大町営林署長に対し、湯俣山荘敷地について平成元年四月一日以降の使用の許可を求めた(乙事件の乙八の2)。

富山営林署長は、右許可を求める申請書に営業実績報告書が添付されていなかったことから、同年三月一日から同月二〇日までの間三回にわたり、原告に対し、営業実績報告書を提出するよう求めるとともに、提出のない場合は、右申請書に係る使用許可はできない旨及び使用期間満了後は本件富山国有林野を原状に回復して返還しなければならない旨を文書で通知した。

(五) 大町営林署長は、同月二三日付け文書をもって、原告が富山営林署管内において国有林野の使用許可条件の一つである営業実績報告書の提出を拒否し、結果として二年分の使用料を納付していないことを聞き及んでいる旨及び大町営林署長としては、このような使用許可条件違反者に対して国有林野の使用許可をすることはできないのであらかじめ知らせておく旨を原告に通知した(甲一の2)。なお、湯俣山荘敷地の使用料は、従前どおり地価方式で算定され、原告において滞納はなかった。

(六) 富山営林署長は、同年三月二八日付け不許可処分通知書をもって、(一)原告が営業実績報告書を提出していないこと、(二)その結果として、昭和六二年度及び昭和六三年度分の使用料が未納となっていること及び(三)原告が今後も営業実績報告書の提出を拒否し、使用許可条件に従わない旨表明していることを理由として、原告の本件富山国有林野の使用を不許可とした(甲一の1)。

(七) 大町営林署長は、同年三月二九日付け不許可処分通知書をもって、原告の湯俣山荘敷地の使用を不許可とした。なお、右通知書には、不許可の理由は記載されていなかった(甲一の3)。

(八) 国有林野管理規程(昭和三六年三月二八日農林省訓令第二五号)二二条には、次のとおり規定されている(乙四)。

営林署長は、国有林野を借り受け、又は使用(収益を含む。)しようとする者から申請があった場合において、当該国有林野が保安林、保安施設地区、砂防指定地その他国土保全上支障があるものであるとき又は当該申請者が次の各号の一に該当するときは、国有林野を貸し付け又は使用させてはならない。ただし、やむを得ない事情があると認められる場合は、この限りでない。

一 国有林野若しくはその産物の売払代金又は国有林野の貸付料若しくは使用料を滞納している者

二 国有林野又はその産物に関する損害賠償金又は違約金の納付を完了していない者

(九) 昭和四二年四月一八日林野庁長官通達「国有林野の管理処分の事務運営について」(四二林野政第七三八号)の「第7 事務手続」、「3 契約不適格者」には、次のとおり規定されている(乙事件の乙七)。

次に掲げる者を相手として貸付け、使用、売払いもしくは交換の契約の締結または使用の許可をしてはならないものとする。

(1) 国有林野もしくはその産物の売払代金または国有林野の貸付料もしくは使用料を滞納している者

(2) 国有林野またはその産物に関する損害賠償金または違約金の納付を完納していない者

(3) 従来の経歴等から契約を誠実に履行すると認められない者又は国有林野の管理および処分に関して現に係争関係にある者等であって、契約の相手方として適当でないと認められるもの。

2 以上の事実をもとに判断する。

(一)  前記のとおり、行政財産たる国有林野は、原則として私人による使用が禁止されているのであるから、例外的に使用を許可するにあたっては、誰にいかなる条件で使用させるかは、行政財産の適正な管理の要請に基づき、国有林野の管理者が裁量により決定できるものと解される。

そして、前記の訓令や通達は、使用料を滞納している者や契約(使用許可の場合は、「使用許可条件」と解することができる。)を誠実に履行すると認められない者に対して国有林野の使用を許可してはならない旨定めているが、これは、国有林野の適正な管理のために必要なものとして是認でき、本件において、本件富山国有林野の使用許可条件である営業実績報告書の提出を拒否し続けて(営業実績報告書の提出拒否に理由のないことは前記四のとおりである。)二年間にわたり使用料を納付していない原告に対し、大町営林署長が、右訓令及び通達に従って、湯俣山荘敷地の使用を不許可としたのは、行政財産の適正な管理の要請に基づく裁量の範囲内の措置といえる。

(二) この点、原告は、本件富山国有林野についての使用料滞納の事実等は、大町営林署の管轄区域外の事情であるから、これを湯俣山荘敷地の使用不許可の理由とするのは裁量権の逸脱である旨主張する。

しかしながら、営林署長が国有林野の使用許可の相手方として適当でない者かどうかを判断するにあたって考慮すべき事情を、当該営林署所管轄区域内で生じた事情に限定すべき理由は見当たらない。むしろ、使用許可を受ける主体として適当かどうかを判断する際に、問題となる事情の発生した場所を特定し、その場所が当該使用許可に係る国有林野を所管する営林署の管轄区域外である場合にはこれを考慮することができないとするのは、不合理である。

3 よって、乙事件被告が主張するその他の理由(第二 事案の概要五2(二)記載の①ないし⑤の理由)につき考慮するまでもなく、大町営林署長が、原告に対する平成元年四月一日以降の湯俣山荘敷地の使用を許可しなかったことについて、裁量権の逸脱があったとは認められない。

七 結論

以上によれば、原告の甲事件被告に対する本件富山国有林野の使用許可を求める訴え及び乙事件被告に対する湯俣山荘敷地の使用許可を求める訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下し、本件富山国有林野の使用不許可処分の取消しを求める請求及び湯俣山荘敷地の使用不許可処分の取消しを求める請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・德永幸藏、裁判官・源孝治、裁判官・冨上智子)

別紙物件目録<省略>

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